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感想 人間の醜さと「折り合いのつけ方」を描くサスペンス:殺意はないけど/乃南アサ

すごいものを読んだ。

作品情報

タイトル:殺意はないけど

著者:乃南アサ

出版社:新潮社 

定価 :737円

 

あらすじ

なぜ、私ではなかったんだろう──高校時代の仲良し女子4人組を、10年後に待ち受けていたのは? 傑作サスペンス。

高校の仲良し女子4人組。10年後──阿季子はアイドルとして活躍したあと玉の輿に乗って主婦に、由記はタウン誌編集長に、はるなは地方局アナウンサーに、玲子はぬいぐるみ劇団の団員になっていた。そして阿季子の芸能界復帰が決まると差出人不明の「贈り物」が次々と送られてくる。穴だらけの写真、ガラス片……その先に待っていたのは!? 心の闇を描く傑作サスペンス。『微笑みがえし』改題。

(新潮社公式サイトより引用)

 

読んだきっかけ

1991年に刊行された作品が、2025年8月に新潮文庫から文庫化。裏面のあらすじを見て、面白そうじゃないと軽い気持ちで手に取った。どんなサスペンスかも知らずに。

ネタバレの感想

三人と一人、由記・玲子・はるなと、見下される阿季子の四人組。由記・玲子・はるなは理想が高く三人の中でも見下し合っている。ただ、そんな四人の中で阿季子が理不尽な世を渡り歩くだけの図太さを持っていただけ。友人にいたら確かに嫌だけれど。

こんな人に時間使うの無駄だよ、三人とも、この時代に自分の仕事を持ってやっていってるんだから十分にすごいよ。早々に諦めて見限って健全な世界で生きていけばいいのに。そう思うのに、もっとやれ、ばれるな、と復讐を肯定する自分もいる。

 

作者乃南アサと同じく、その場にいない人の陰口を叩く陰湿さを苦手とした側だと思っていたけど、あれ、そうでもないな。

 

割れたガラス片のついた鉢植えを贈り、贋作を作るよう仕向け、さらに週刊誌に最初にたれ込んだのは由記。

肌が荒れやすいクリームを買い与え、整形を勧めたのは玲子。

阿季子の夫と共謀し週刊誌にたれこんだはるな。

 

こうしてみると、由記が一番恨みを持っていたのかもしれない。理由は最後に明かされるが、これは確かに恨まれても仕方ない。殺意を持たないのがすごい。由記の人間性を表している。でも3人の殺意ではないなにかが合わさって、無事に失脚した。

 

メインには据えられていないが、阿季子の元夫である清隆が諸悪の根源。

 

ラストは、結局由記が阿季子の面倒を見ている。心中はいざ知らず、外から見たらへこたれない阿季子。きっと数年すればまた返り咲いて、バラエティのご意見番みたいなキャラになっているのかもしれない。

阿季子はきっといつの時代も誰といてもしたたかに生きていく。令和風に言えば生粋のテイカーで、それに罪悪感を持たない。

清隆はいつの時代にもいる、自分だけはうまくやれると勘違いしている、平凡なカス男。

由記・玲子・はるなはただ人間として生きていて、折り合いをつけるために殺意ではない何かを昇華させるしかなかったと、そう思って辛い。

 

読んでくれている人も、私も、誰かと比べて妬ましくて苦しくなったことがあると思う。これからの令和の時代にはそんな息苦しさがないといい。